国際学類について
教員紹介
日本・日本語教育コース
清水 邦彦 教授
日本・日本語教育コース 研究領域日本思想史・日本民俗学・日本文化 |
1.私の研究と授業
私の主研究は地蔵信仰です。日本の道ばたに地蔵像が立っていることは珍しくない風景です。道ばたに祀られるのは地蔵以外に馬頭観音や道祖神・庚申塔などもありますが、数字的には地蔵が多いように見えます。仮に外国の方から「あれはどうして立っているのですか? 日本古来のものですか?」と聞かれて、ちゃんと答えられる日本人は少ないでしょう。
地蔵は仏教の菩薩ですから、インド生まれ・中国(ひょっとすると中国→韓国)経由で日本に入ってきたものです。その時期は、おおよそ平安時代です。(ちなみにこのHPを閲覧の皆さん、仏と菩薩の違いは分かりますか?)
もともと仏教の菩薩ですから、地蔵は寺で祀られるものです。現在でも、寺の建物内や境内で祀られることは珍しいものではありません。しかし、道ばたでも祀られるものです。そして、道ばたで祀られる場合、寺と無関係な場合が多いです。では、どういった経緯・心意で地蔵は道ばたで祀られるようになったのでしょうか? そもそも外来のものがどういった経緯で日本を代表するカミサマになったのでしょうか? これが私の主研究です。
ちなみに法律とか行政とかに興味のある方、地蔵が公道に祀られるのは、政教分離違反でないかどうか、調べてみてください。既に最高裁判決が出ています。
国際学類に入学する、さらに日本・日本語教育コースに所属しても、地蔵は必須ではありません。地蔵に関し興味がある方には「日本の思想と宗教」という授業で、日本思想史の概説を兼ねながら、地蔵の話をしています。選択科目です。私の研究の一つに、「日本に於ける神と仏との関係」というものもあります。これは上述の地蔵研究の一環です。例えば、外国の方に、「日本人は正月には初詣に行き、葬式は仏教式で、結婚式はキリスト教式だが、神と仏との関係はどうなっているのか」と聞かれた場合、きちんと答えられる日本人は少ないでしょう。この問題に関しては、「宗教学C-日本思想史入門」という授業で取り上げます。これも選択科目です。
ここまで読んでくれた人は分かりつつあるかもしれません。私の興味関心は、日本人であれば、あたりまえだが、他の文化圏の方から見れば不思議なこと、かつ「不思議」に対して、日本人が説明できないものにあります。
だめ押しでもう一つ例を挙げると、合格発表の際、なぜ胴上げをするのか、というものがあります。類似例として、霊柩車を見ると、親指を隠すのは何故か、というものがあります。これらについては「日本思想史」という科目で取り上げます。選択科目です。
これ以外にも、日本語と外来文化、日本の葬式などに興味を持って、研究をしています。
日本語と外来文化、というのは、例えば、日本語でカルテと云えば、医者が患者の状況を書く紙ですが(近年は電子カルテという言葉もあるようです)、もともとのドイツ語にはそういった意味はありません。なぜ、そのような意味変化が起こったのか? あるいは日本語で「念仏」といった場合、「仏の名前を口に出して唱える」という意味ですが、漢字の「念」はもともと「心に思う」という意味です。ちなみに「南無阿弥陀仏」の「南無」はインドのサンスクリット語から来ています。「摩訶不思議」の「摩訶」もサンスクリット語です。
こうした問題に関しては、国際学類必修科目「日本文化」で少し取り扱います。「日本文化」では、外国人の見た日本文化論の紹介を主に行います。
日本の葬式という問題は、例えば、現代日本に於いて、多くの場合、人が死ぬと葬式の準備の一環として、僧侶が死人に戒名を付けます。戒名というのは、もともと出家した際に付けられる名前でしたが、現在では、死者に付ける名前と変わっています。こうした日本の葬式は、どのような経緯を経て形成されたのか? これは「生と死をみつめて」という多くの方がリレーで行う授業で、清水担当分1回で取り上げます。
ちなみに今まで日本という言葉を不用意に使っています。私としては、日本という確固たる文化圏があるとは思っていません。例えば、皆さん、骨壺の大きさが東日本と西日本では違うのを知っていますか? 東が大きく、西が小さいのです。金沢市は小さく、能登地方は大きいのです。(ここで東日本と西日本でカップうどんの味が違う例をあえて出さないのが清水流)無論、昨今のケンミンショーなどを見ても、ある県の1地域でも独自の文化があることは自明の事です。授業では地域独自の文化まではなかなか取り上げることはできませんが、金沢大学には全国から学生が来ますので、学生からの「先生、それはうちの地方ではやらない」といったコメントを取り上げ、修正するようにしています。
当然、日本国内には、少数民族として、アイヌ民族や琉球民族もいます。これらの問題についても、なかなか本格的に授業で取り上げることはできませんが、一般に、少数民族問題は国際問題の基本ですから、忘れないように適宜授業で取り上げるようにします。
2.ゼミ
日本・日本語教育コースという性質上、清水ゼミ所属の卒論テーマは、上記のこととはあまり関係なく、日本語(教育)・日本史以外の日本文化となります。言い換えると、他の専任教員3名の研究範囲以外のテーマを卒論とする学生を受け入れるようにしています。論より証拠、以下、具体例を挙げます。
第一期生
- 「となりのトトロ」の英語訳
アニメ映画「となりのトトロ」がどう英語に訳されたか、を考察した。具体的には「いただきます」等。「いただきます」を和英辞典で引けば、何らかの英訳が出てくるが、その英訳は日常的には使われない(興味のある方は例えば学校のALTに聞いてみてください)。では、英語版「となりのトトロ」ではどう訳されているか? なお、米英コースの小原教員(映画研究)に副指導をお願いした。国際学類では、自コースの研究方法を重視しつつも、研究対象によっては、他コースの教員に副指導をお願いすることができます。 - 金沢市の学校給食
小学校・中学校の給食は、大多数の日本人が経験するものだが、まとまった研究がない。金沢市に研究対象を絞り、その変遷を追ったもの。史料不足ではあったが、学校給食が時代と共に変化していったことが確認された。 - 鯨供養
キリスト教では、人と動物を厳密に分ける傾向があり、そのため、キリスト教圏に於いては動物に対して人同様の死者儀礼を行うことはありえない。一方、日本では動物供養は珍しいことではない。能登半島に残る、鯨供養を文献・聞き取りで記録化し、分析した。当初は、時に国際問題化する、捕鯨論争に一石を投ずる予定だったが、そこまではいかなかった。
第二期生
- 漫画サザエさんから見た戦後日本
まず、アニメ・サザエさんの元が新聞連載漫画であったことをこのHPをご覧の皆さんは知っていましたか? 漫画サザエさんは、1946年に連載が始まったもので、戦後の混乱期の生活を記した貴重資料なのです。
例えば、闇市にサザエさんが買い物に行く話があります。闇市は、建前上、違法です。例えば、現在、漫画の1シーンで、高校生がタバコを普通に吸っていたら、抗議を受けます。にもかかわらず、新聞に連載している漫画で闇市が出てくる。同時、人々にとって、闇市が必須であったことを伺わせます。
卒論では、配給という言葉がいつまで出てくるか、ということを中心に分析しました。ちなみに戦時配給がいつ始まったか、は年表に出てきますが、いつ終わったか、は出てきません。このHPを見ている高校生は、日本史の先生に聞いてみてください、実力のある先生からキチンと答えてくれますが、そうでない先生はやな顔をします。 - 男子サッカー部に見られる敬語・上下関係
概して、日本の運動部は、上下関係に厳しく、先輩に敬語を使わないと、大変なことになる。ところが、大学サッカーの試合に於いては、「○○先輩、お下がりください。オフサイドにならせなります」とは言わず、「○○下がれ、オフサイドになる」でOKだそうだ。当然、普段、後輩がそんな言葉使いをしたら、大変なことになる。では、学内の紅白戦においてはどうなのか? レギュラーの先輩と、補欠の先輩とで、敬語の使い方は変わるのか? ちなみに大学というところは、時に1浪・2浪、さらに一旦他大学を卒業して、再入学した方もいたりするところだが(このHPを見ている方の中にも浪人生はいると思うが)、年齢差のある同期に対して、敬語を使用するか否かも検討しました。
第三期生
- アニメ聖地巡礼
アニメのモデルとなった神社等にアニメファンが赴き、時に痛絵馬を奉納する行為を、昨今は、アニメ聖地巡礼と呼んでいます。この行為がいつ頃始まったのか、この行為を地元の人はどう見ているのか。時に町おこしに使っているようだが、それは上手くいっているのか。
日本・日本語教育コースでは、3年からゼミ配属です。以上を踏まえると、清水ゼミの学生は、例年3~4名と言いたいところですが、院生・留学生も参加します。とはいっても院生・留学生を加えても、5~6名と少数です。なので、すぐに顔と名前が一致し、和気あいあいとしたゼミとなります。
日本政治で卒論を書きたい方は、国際社会コースをお勧めします。
3.大学院
このHPは学類用ですが、金沢大学の大学院進学のために、このHPにたどり着いてしまった閲覧者もいるかと思います。私自身は、日本文化を研究したいのであれば、どなたでも受け入れたいと思っています。但し、なぜ指導教員の希望が私なのか、他に適任者はいないのか、一度調べてから、問い合わせをしてください。
例えば、昨今だと、「先生の元で、日本漫画を研究したい」という問い合わせがたまにありますが、たとえば何故、夏目房之介ではないのか、ということを一度、調べ、考え、私に説明できるようにしてから、問い合わせしてください。留学生の場合は、日本語能力試験N1合格者に限ります。
ちなみに私は博士前期課程(所謂修士課程)のみ担当ですので、博士後期課程まで進学し、博士学位を取得して、研究者を目指そうという方は、他大学の大学院をお勧めします。