教員紹介

米英コース / 結城 正美 教授

結城 正美 教授
米英コース
結城 正美 ( Yuki Masami )

研究領域
環境文学、エコクリティシズム、比較文学

Directory of Researchers at Kanazawa University
金沢大学研究者情報
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【研究内容やゼミの内容】

専門は環境文学研究(エコクリティシズム)です。多くの人にとっては耳慣れな い分野かもしれません。文学が環境の問題とどう関わるのですか?とよく訊かれ ます。

環境の危機は想像力の危機であると言われます 。人口爆発、 水・大気・土壌汚 染 、砂漠化、気候変動をはじめ、 多くの問題 が存在します。いずれも早急な 対応が必要であることは誰もが知るところです。では環境問題の改善のために自 分は何をすればよいか――そう問いかけて行動を起こす人はどれほどいるでしょう か。

「知っている」だけでは行動につながらないのです。

いくら情報や知識があっても、環境の危機に反応する(response)ことがなければ、 責任感(responsibility)のある行動は生まれません。そして、環境の問題への 反応を促すのが想像力なのです。

高度経済成長期に発生した「四大公害病」については、日本の義務教育を受けた 人なら誰もが知っています。水俣病、新潟水俣病、四日市喘息、イタイイタイ病 ――このうち 水俣病は突出して現在でも活発に語られ論じられています。その理 由の一つが、国内外で高く評価されている石牟礼道子の小説『苦海浄土――わが水 俣病』(1969年)にあることは疑いえません。他の三つと異なり、水俣病問題は優 れた文学的表現を得ました。『苦海浄土』を読んで水俣病問題の支援活動に携わ った人の数は知れません。文学の言葉で語られているがゆえに、水俣病問題は発 生から60年 以上経った現在でも人の心を揺さぶり、想像力を喚起し、人びとの 反応を促しているのです。

詩が失われたなら、人間は本当におしまい。詩だけが、文学こそが、人間である ことの問いを千年先まで運ぶのだから。(姜信子『声――千年先に届くほどに』ぷ ねうま舎、2015年)

レイチェル・カーソンの『沈黙の春』(1962年)も同じです。有能な海洋生物学者 であったカーソンは科学論文としてDDTや農薬散布の危険性に警鐘を鳴らすこと もできたはずなのに、文学という手段を選びました。読者一人ひとりの心に届く 言葉だからこそ、何十年経っても 環境問題を考えるバイブルとして読み継がれ ているのでしょう。

私はこれまで主に、水俣とチェルノブイリと福島の問題、そしてそのいずれにも 関わる里山の問題への文学的アプローチを研究し、現在は、主に日米の食問題を めぐる文学実践の考察に取り組んでいます。また、机上の研究だけでは不十分と 考え、野菜の自産自消の実験も始めました。 コンパニオンプランツを利用した 無農薬栽培で、虫との折り合いのつけ方に悩まされますが、種をまきさえすれば 野菜を育ててくれる土の力には大いに心を動かされます 。

・・・都市は土を排除してきた空間である。最初は便利とかスピードといった近 代の価値が躍り出て土を消し、やがて土は不衛生な土埃と成り下がり、意識的な 排除の対象となった。それにともなって土臭さや泥臭さは都市の美学から追放さ れ、土そのものの力や意味が都市から失われていった。別の言い方をすれば、都 市では何かが育つことが期待されていないのである。もちろん人は性を営み、子 供を生み、それを育てることに特殊な情熱を抱く。しかし「育つ」比喩のないと ころで、「育てる」情熱を燃やすことは難しい。・・・自然に育つことを学ぶの は、自然からしかない。(宮迫千鶴『海と森の言葉』岩波書店、1996年)

近い将来、 環境文学の授業やゼミで「読んで議論する」ことに加えて「土に触 れて育てる」試みも取り入れたいと考えています。里山にキャンパスのある金沢 大学なら十分可能でしょう!

【研究テーマ/Focus Areas】

おもな研究テーマは以下の通りです。

  • Ecocriticism
  • Comparative environmental literature
  • Food, biocultural diversity, and sustainable eating
  • Toxic discourses
  • Satoyama and rural ecology

【著書 / Recent Books】

  • Coeditor, Ishimure Michiko’s Writing in Ecocritical Perspective: Between Sea and Sky. Lanham: Lexington Books, 2016.
  • Coeditor, Literature and Art after “Fukushima”: Four Approaches, Berlin: EBVerlag, 2014.
  • 共編『文学から環境を考える――エコクリティシズム ガイドブック』勉誠出版, 2014年.
  • 『他火(たび)の方へ ――食と文学のインターフェイス 』水声社, 2012年.[英語版 Foodscapes of Contemporary Japanese Women Writers: An Ecocritical Journey around the Hearth of Modernity, Trans. Michael Berman, New York: Palgrave Macmillan, 2015.]
  • 『水の音の記憶――エコクリティシズムの試み』水声社, 2010年.