教員紹介

アジアコース / 古泉 達矢 准教授

古泉 達矢 准教授
アジアコース
古泉 達矢 ( KOIZUMI Tatsuya )

研究領域
イギリス帝国史、中国近現代史

【研究内容やゼミの内容】

 私は今まで中国とイギリス帝国の歴史について、主に香港に着目して研究を進めてきました。香港と聞くと、みなさんは何を思い浮かべるでしょうか。島に立ち並ぶ高層ビル群や看板だらけの通りでしょうか。香港へ行った事のある方なら、飲茶や点心を思いうかべるかもしれません。私は経験したことがないのですけれども、返還前の香港をご存知の方であれば、啓徳空港へのスリリングな着陸も心に残っていることでしょう。

 香港はかつて、外国人による中国本土への旅行が厳しく規制されていた頃、日本人にとって最も身近な「外国」の一つでした。これは香港が歴史的には中国の一部を構成してきたにも関わらず、アヘン戦争以降1997年に至るまで、イギリスの植民地として中国とは異なる「地域」としての歴史を歩んだからに他なりません。さらに香港の深い港湾や中国南部から香港を経由して世界各地へ移民していった華僑の人的紐帯は、香港が東アジアにおける物流・金融網の中心として成長するのに重要な役割を果たしました。

 以上のような香港の歴史的性格、つまり中華世界の一端を占めつつも、イギリスの植民地であり、東アジアにおける物流・金融網の中心であるという点は、この地域の歴史や社会のありかたに独自の色彩を与えています。確かに住人のほとんどは広東省の出身者を祖先に持つ中華系の人々ですが、ユダヤ系やインド系、東南アジアの出身者や欧米人、さらには彼らの混血の人々も住んでいます。多くの人々が中国における方言の一つである広東語で会話していますが、ビジネスでは英語も使えますし、近年では中国本土で一般的に用いられている普通話も通用しやすくなっています。街中は独特の活気に溢れており、時間の流れは東京よりも遥かに速く感じられ、それに追いついていけないわが身に気後れを感じることも少なくありません。香港島に乱立する高層ビルの谷間から小さな空を見上げると、興奮とも寂寞ともつかぬ奇妙な感情にとらわれます。

 このように述べると、香港は今日どこにでもある巨大都市の典型例のように思われるかも知れません。文化的に複合的・重層的で、様々な言葉が飛び交いスピード感のある社会は、近代化を経験したどのような都市にも見ることが出来るではないかと。それどころかグローバル化の進展により、こうした状況は程度の差こそあれ、今や世界的にありふれた光景なのではないかと。

 確かにそうかも知れません。それでもなお、いやだからこそ、香港の経験は検討に値するように思われるのです。畢竟香港という地域は、アヘン戦争がなければ恐らくあのような発展を遂げることはなかったという点で、東アジアにおける近代という時代の落とし子だったと言えるでしょう。ということは香港の近代史を問うことは、東アジアにおける近代という時代の意味を問うことにつながります。このような試みは、現代の東アジアを理解する上でも貴重な鍵を提供することでしょう。将来的にはこのような関心をもとに、香港との比較に留意しつつ、中国を中心とした東アジア各地の近現代史についても研究の視野を広げて行きたいと考えています。

 ゼミでは香港に限らず、広く東アジアにおける政治や社会に関心のある学生と共に勉強しています。